本記事では、自動車の「動力源」という観点から、内燃機関とモータを比較します。
私が現在考える結論は、「動力源としてはモータが優秀であり、バッテリなどの進化が追いつけば内燃機関に勝ち目がなくなるだろう」となります。
こう考える理由を、以下の3点から説明します。
- 燃料、貯蔵方法
- 出力特性
- エネルギー変換効率
1. 燃料、貯蔵方法の違い
内燃機関とモータの燃料、貯蔵方法をまとめた表が、以下になります。
動力源 | 内燃機関 | モータ |
燃料 | ガソリン、軽油、天然ガス等 | 電気 |
貯蔵方法 | タンク、ボンベ | バッテリ、ボンベ(燃料電池) |
長所 | 燃料満タンにする時間が短い | 走行時大気汚染物質が発生しない |
短所 | 走行時に大気汚染物質が発生 | エネルギー密度が低い、充電時間が長い(バッテリ) |
内燃機関は、様々な燃料を燃やして走ります。燃料は液体や気体で、タンクやボンベに貯蔵します。
モータは電気で動きます。電気はバッテリに蓄えられたり、水素をボンベに詰めてから、燃料電池で電気に変換したりします。
充填密度、所要時間が現状の差
両者の最大の違いは、エネルギーの貯蔵手段が、燃料かバッテリかということです(燃料電池は事情が異なります)。
燃料の長所は充填時間の短さとエネルギーの密度で、バッテリの長所は走行時の環境負荷がほぼないことです。
ちなみに環境負荷については、発電方法やLCA(ライフサイクルアセスメント、製造から廃棄までを総合的に考慮した環境負荷)の観点で議論があります。
2. 出力特性の違い
出力特性とは、どの回転数でどのようにパワーが出せるかを示すものです。
一例として、ホンダ フィットのハイブリッド仕様車に搭載されているエンジンとモータの、最高出力と最大トルクを見てみます。(参照:フィット 主要諸元表)。
動力源 | エンジン | モータ |
最高出力(回転数) | 72kW (5600-6400rpm) | 80kW (3500-8000rpm) |
最大トルク(回転数) | 127Nm (4500-5000rpm) | 253Nm (0-3000rpm) |
モータは出足が良い
注目していただきたいのが、最大トルクの発生回転数です。エンジンはある程度回さないとパワーが出ないのに対し、モータは0回転から最大トルクとなります。
ハンディ扇風機やミニ四駆の回転を、無理やり手で止めた経験がありますか? それは思いの外力強かったのではないでしょうか。自動車のモータも同様です。
同程度の出力のエンジン車よりも、モータで動く車は走り始めの加速に優れる傾向があります。
モータ車にトランスミッションは必須でない
また、最大出力・トルク共に、モータはその回転数の範囲が広くなっています。
すなわち、モータは広い回転域で高効率を発揮できるということです。
エンジンは効率の良い回転域を保つため、ギア比を切り替えるトランスミッションが必要でした。そうしないとまともに走行できなかったからです。
一方、モータで駆動するEVでは、トランスミッションは必須ではありません。
実例として、トヨタ、アイシン、デンソーが協力して立ち上げたBluE Nexus社が発表している、電動車用駆動モジュール eAxleのラインナップを見てみましょう。
eAxleは、トヨタの新型EV「bZ4X」にも使われている駆動モジュールです。
モデルの特徴と用途 | ギア段数 |
小型、コンパクトカー用 | 1 |
標準、多用途 | 1 |
高さが低い、トランクを大きくしたい車用 | 1 |
2速AMT、商用車用 | 2 |
2速AT、プレミアム車用 | 2 |
上記のラインナップを見ても、一般乗用車に変速機は不要で、商用、高級車でもせいぜい低速、高速の2段があれば十分と考えられていることがわかります。
3. エネルギー変換効率の違い
個人的に、一番キモになる違いだと思っています。
自動車用エンジンのエネルギー変換効率は30~40%、モータは80~90%程度とされています。
内燃機関はエネルギーの半分以上を熱として捨ててしまいます。一部は暖房などで利用できるものの、基本的にムダが多いです。
一方、モータは充電時の損失を加味しても、エンジンの倍以上効率良くタイヤを回せます。
電動化が進んでいる例:鉄道
鉄道は、自動車よりも早い時期から電動化が進んでいます。
架線から電気を供給することで、バッテリや充電の課題を無視しつつ、モータの「効率が良い」という点を最大限享受できたためです。
総評:電力供給方法が改善すれば、モータの圧勝
以上3点を見ると、動力源単体としてはモータが圧倒的に優れています。
現状のEVが持つ航続距離、荷室容量、価格といった課題は、おおむねバッテリと関連インフラによるものです。
バッテリの技術革新や、充電ステーションの整備、無線充電のような新技術の実用化などによって、これらのデメリットは解消されていくでしょう。
乗り物としての効率を考えれば、内燃機関をあえて選ぶ理由は次第に消えていくと思われます。
内燃機関が生き残る道:合成燃料や水素エンジンなら、趣味やスポーツで戦える
内燃機関に全く未来がないわけではありません。
化学的に合成したり、植物から作るバイオ燃料(e-fuel)や、水素エンジンといった技術が研究されています。
これらは、カーボンニュートラルなエンジン車を実現する手段です。
ただ、こうした技術が実用化された頃には、効率、コスト面で電動車に叶わなくなっているのではと、私は予想します。
とはいえ、内燃機関が持つ振動や音、車を操る喜びを支持する人がいることも事実。
実用車というよりは、趣味やモータースポーツといった分野で、エンジンが生き残っていくのではないでしょうか。
数多の技術者が、100年以上の歳月をかけて熟成させた自動車エンジン。
その系譜が、細々とでも続いていくことを願います。