自動車にドライブレコーダーを設置したり、イルミネーションを取り付けたりする時、電源としてヒューズボックスを使うことが多いと思います。
使用していないヒューズから電源を取り出し、配線します。
電気はプラスとマイナスの回路がつながって初めて流れます。
ヒューズボックスがプラスになり、マイナス側は、ボディの鉄板にボディアースとして接続します。
ここまではネットで調べればできるのですが、私はふと疑問に感じました。
- ボディの鉄板に電気がちゃんと流れるのか? 鉄の抵抗は大きいのでは?
- ボディに電流が流れていたら感電しないのか?
このあたりを、調べて自分の中で理解ができたため、説明していきます。
ボディアースを配線に使っている理由
電気抵抗は抵抗率と断面積で決まる
鉄の抵抗が大きいという認識は合っています。
金属などの導体の電気の通りやすさは、抵抗率で表されます。
配線に使われる銅と比較して、鉄の抵抗率は10倍くらい大きいです。(参考:Wikipedia)
ただ、電気抵抗は抵抗率だけでは決まりません。
そして、電気が通る経路の電気抵抗は、
電気抵抗 = 抵抗率 × 長さ ÷ 断面積
という式で求めることができます。
車体の鉄板を電気の経路として用いる場合、電気の通り道はボディ全体です。
したがって、断面積がとても大きくなるため、結果的に電気抵抗が低くなります。
電気抵抗が低ければ、発熱や電気の損失を気にしなくてよいわけです。
マイナス側の配線が減ってコストが低減される
ボディが配線に使えるのは分かりましたが、あえてそうするメリットは何でしょうか?
プラスとマイナスを両方備えたケーブルではダメな理由は?
それは、コスト低減、軽量化のためです。
自動車の各部には、電気で動く部品が大量に存在します。
メーター、パワーウィンドウ、ドアロック、ランプ……
これらの電源や信号線はワイヤーハーネスといって、人間の血管のごとく車全体に張り巡らされています。
電源配線の片道をボディアースにすれば、必要な導線がグッと減ります。
1グラムでも軽く、1円でも安くしたい自動車にとって、これは大きな違いになります。
ボディに電気を流しても危険ではない理由
回路が形成されないから
電気が流れるためには、電源のプラスからマイナスまでの回路が成立する必要があります。
自動車の場合、電源は12V(または24V)のバッテリーです。
バッテリーのマイナス側はボディとつながっている一方、プラス側の接続先は各種配線。
あえてむき出しの端子やボディに触れでもしなければ、感電する危険はないわけです。
感電しても致命的ではないから
バッテリーの12Vや24Vといった電圧は、人体に影響を与えるには小さいです。
人体の抵抗が大きい(数千オーム)ため、ほとんど電流が流れないためです。
体が濡れていたりすると危険ですが、ずぶ濡れで電装品に触る人もまあいないでしょう……
余談:ハイブリッドやEVの高電圧は専用経路を使う
ここまでが、一般的な電装品の配線の話です。
しかし、ハイブリッドやEVの駆動用電源では、話が変わってきます。
これらのシステムは、効率を良くするために数百ボルトの高電圧で動きます。
数百ボルトで感電してしまうと、人が死んでしまう危険性が十分あります。
あるいは、意図しない場所で通電して火災発生、という事態も考えられます。
そのため、ハイブリッドやEVの高電圧部分は他と電気的に絶縁されており、メンテナンス時や漏電発生時に電流を遮断する仕組みが備わっています。
余談部分の参考書籍:デンソー カーエレクトロニクス研究会「図解 カーエレクトロニクス [上]システム編」, 日経BP社, 2014年8月, 96p